待つ男 一/結城 森士
冬も近くなって日の落ちる時刻もだいぶ早くなった。少し暗くなった渋谷の駅前ではいかにも胡散臭そうな50過ぎのロシア男がショパンの別れの曲に合わせて操り人形を躍らせていた。ロシア男は渋谷をうろつく数人の男女を捕まえては下手な芝居を見せ、地面に置いたシルクハットの中に小銭をせびっていた。
その様子を10数メートル離れた壁にもたれ掛かり横目で眺めてから既に1時間は経つ。井崎誠司はある人を待っていた。
チッ…。煙草を地面に投げて舌打ちをした。その操り人形使いはどうもあまり上手くないように見えた。というより、下手糞だった。10分も真横から見ていればすぐに分かることだ。落とした吸殻をつま先でグリ
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