待つ男 一/結城 森士
グリグリと押し潰す。苦々しくつばを吐く。まるで音楽に合わせられてない人形の手足。動きも歪だったが、何より井崎が嫌だったのは、誰にでもすぐに出来そうな動作をさも高等な技術であるかのように見せる男の表情だった。そしてそれをすごいすごいと言って携帯で写真を撮っている観客達の反応もまた井崎を不快な気分にさせた。駅前を通り過ぎる幾人かの人々を無遠慮に呼び止めるロシア男を忌々しく横目で流しながら、更に思う。街を歩く全ての人々、彼らもまた同様に「下卑た薄ら笑い師」だ。
*
井崎はまだ待っていた。足元に十数本の煙草が散乱していた。相変わらず苦味を潰したような顔で、それでもその場を立ち去る気配は無い
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