指先の記憶/衿野果歩
 
「比べてみよっか」と
あなたは笑って手を広げた

重なった五本指の向こう
あなたの笑顔がまぶしい



丁度指先三本分

ふたりの距離を
一気に埋めてしまいたいような
もう少しそのままで居たいような

並んで歩いた 真昼の月の下



二本の指先のナイフ
あなたの人差し指と中指が
私の肌を切り取ってゆく

熱の軌跡
吐息

鼓動が痛いくらいに



右手を銃のカタチに
放つ想いを空へ

届くまで何度でも

ニセモノの銃口からは
何の傷跡も残せなくても



両の掌を固く結んで
口元には笑みを

たぶんひきつったままの頬

「ごめん」なんて聞きたくなくて
「ありがとう」とつぶやく

本当に悲しいときに涙は出ない
かわりに掌から滲むんだ


「ありがとう」

そんなことを教えてくれたのは
あなただけだったよ


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