指先の記憶/衿野果歩
「比べてみよっか」と
あなたは笑って手を広げた
重なった五本指の向こう
あなたの笑顔がまぶしい
*
丁度指先三本分
ふたりの距離を
一気に埋めてしまいたいような
もう少しそのままで居たいような
並んで歩いた 真昼の月の下
*
二本の指先のナイフ
あなたの人差し指と中指が
私の肌を切り取ってゆく
熱の軌跡
吐息
鼓動が痛いくらいに
*
右手を銃のカタチに
放つ想いを空へ
届くまで何度でも
ニセモノの銃口からは
何の傷跡も残せなくても
*
両の掌を固く結んで
口元には笑みを
たぶんひきつったままの頬
「ごめん」なんて聞きたくなくて
「ありがとう」とつぶやく
本当に悲しいときに涙は出ない
かわりに掌から滲むんだ
「ありがとう」
そんなことを教えてくれたのは
あなただけだったよ
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