記憶の旋律/いすず
 
懐かしい曲が流れる
あなたがよくくちづさんでいた
T.H.というとあなたにはひらめく言葉

かなしいときは両腕を広げて
うれしいときは胸いっぱいに抱きとめて
雨宿りの午後に 傘もなく待つ軒下で
もうながく会えなくなること 言い出せなかった
あなたの やさしい笑みに つらすぎて

あなたがいるからさびしくなかった
いまでも 思うの
わたしが愛せなかった自分の過去
あなたは 愛していたね
知っていたの

記憶の中で
恋人はいつまでもやさしいというけれど
あなたは心の奥にまで入ってきたエトランゼ
懐かしい雨がいまも降る

やさしいリズムで
くちづさんでいた言葉
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