ウルトラマンの人形 ー江ノ電にてー /服部 剛
電車の外へすべり落ち
頬を赤らめベソをかいたあの日が
遠い記憶の脳裏に浮かぶ
幼稚園の誕生会で舞台に上がり
「将来ウルトラマンになりたいです」
年長のガキ大将に笑われて
げんこつをもらったあの日
あのウルトラマンの人形は
遠い昔の昨日のなかに
影も形も消えただろう
30年の時を経て
ウルトラマンにはなれなかったが
日々の職場の小さい部屋で
認知症で不安げな
ひとりの老婆にとってのウルトラマンなら
こんなぼくでもなれるかな
幾重もの小波(さざなみ)が
こちらに
音もなく押し寄せる
海の見える小さい駅で降りた
若い母と幼い娘
流れる車窓の向こうから
ドアに凭れて俯(うつむ)くぼくに
ふたり揃って
手をふった
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