鉛色の街 /服部 剛
 
老夫の胸に
長い間蓋を閉じていた
遠い日の戦  

時折今も夢に見る
モノクロームの場面 
白飯を掻きこんだ後 
張り詰めた空気の部屋で 
就寝前 
心細く母のことを語らいながら 
笑みを浮かべて寝た友は 
翌日 
戦火の海に散った 

訓練中に足を折り 
戦場を逃れ 
命を取り留めた彼に 
戦後五十年の月日が流れ 
ひとり暮らしの老夫となった 

ある日
電話が鳴り 
先週将棋を指して 
向き合った 
近所の老夫が急逝したと 
正午の電話で知らされた 

窓の外に広がる二十一世紀 
透きとおってゆく街に浮かび上がる 
あの日荒れ果てた地の幻 

背の高いビルが立ち並び 
戦争を知らない若者達は 
不安な影を頬に帯び 
行方の無い明日へと 
まばらな私服の行進をしている 

( 最近の気象は変わりやすいのだ・・・ ) 

日の光を閉じた雲の扉 
薄暗く覆われた鉛色の街 
ビルの谷間の空に 
一閃の雷鳴が轟(とどろ)いた 




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