ノスタルジア/三州生桑
 
空気が乾燥して


映画館までの道のりは、西部劇の決闘シーンやうに砂ぼこりが舞ってゐる
モギリは陰気な女だった
人差し指を立てて「大人一枚!」と言ふと「3800円」と応へた
「いや、特別席ぢゃないよ、普通の、一般席でいい」
女はメガホンのやうなものを耳に当てる。難聴なのだ
「一般席だよ!!」
女はつまらなさうに半券を切る。白目を剥きながら


館内は森閑としてゐる
掛かってゐる映画は、私が観たことのあるものばかりだ
ただ一本だけポルノ映画が掛かってゐる。私はポルノ映画を観たことがない
少年が一人、所在なさげに立ってゐる。とても可愛い男の子だった
「一緒に観る?」
「メガネが無いから・・・」
さういふと、少年は壁に向かって放尿する



ああ、ここは日本ではないのだ




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