お婆さんの飴玉/服部 剛
 
残業の時刻 
隣の机の同僚が ぼりり と 
飴を噛みくだいた 

「 お年寄りにもらったの? 」 

「 はい、Tさんから 」 

耳の聞こえぬTさんは 
お婆さん達の会話にいつも入れず 
黒い眼鏡の裏側で 
いつも涙をためている 

時折、職員の名前を呼んで 
まっすぐさしだす細い手から 
ぎゅぅ と飴玉を握らせる 

明かりの消えた 
老人ホームの部屋 

いつも蚊帳(かや)の外で
Tさんがうつむく無人の席に 
机に向かう僕等は揃(そろ)えて
目をあげた 




戻る   Point(6)