虫の信号 /服部 剛
心から重荷を取り除けない
無気力な秋の日
よい本を探しに本屋へ歩く
背後の空から
何者かが舞い降り
わたしの髪にのったので
咄嗟(とっさ)に手を出し振り払う
しゃがんで地面をみつめると
黒玉模様の赤羽に
遥かな空に燃える陽(ひ)を映す
天道虫が
ますます小さくなっていた
( こんなみじめなわたしに )
( 一体何を )
( 知らせに来たんだい・・? )
尋ねた後に立ち上がり
( なぜ払い落としてしまったのだろう・・・ )
と呟きながら
ふたたび道を歩き出す
本屋に入ると
文芸コーナーに
「 わたしの生き方 」
という本が積まれ
表紙に描かれた
うつむく人の頭の上に
天道虫が一匹
心配そうにとまり
暗闇の信号を
灯していた
戻る 編 削 Point(2)