Ave Maria /服部 剛
異国へ旅立つ
彼の背中を
小さい額の中から
いつまでも
亡き母はみつめていた
手前に置かれた花瓶の百合は
あふれんばかりに咲き乱れ
いくつかの細長い蕾(つぼみ)は
喜びに口先を開く
両脇に並ぶ人々は
独り悶えた暗闇の夜
彼に励まされた言葉を
それぞれの胸に灯し
瞳を潤(うる)ませ唄う
Ave Maria
一足ずつを
ゆっくり踏みしめ
人々の間の道を
彼は往(ゆ)く
いつまでも
見送る人々から
遠く離れた草原の
風に開いたドアがあり
光に包まれた人影は
こちらを振り返り
手を上げた後
新たな日々へ
歩いていった
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