味噌汁の絵 /服部 剛
 
自分の名前を忘れてしまった
お婆さんのお尻を
「よっこらせ」
と抱えながら
車内の椅子に乗せた後  

息子の嫁さんが 
「これ、ありがとうございました」 
と透けたビニール袋を手渡した 

車内に座りよく見ると 
(先週お借りしたものです) 
紙パンツとお礼の便箋(びんせん) 

いつも老人ホームでは 
「かゆいかゆい」
と出したお腹をぽりぽり掻く
お婆さんに眉をしかめる同僚は 
「家族は医者にいかないのかな」
と嘆いているが 
きっと悪気はないのです

ビニールに入った紙パンツと 
不器用な字で綴(つづ)られた便箋の下 
小さい味噌汁のお椀から 
ゆげが昇っていますもの 




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