月夜ノ呼声 /服部 剛
 
見上げた秋の夜空に昇る 
丸い月の下を 
千切れ雲は掠(かす)めゆく 

光に浸した綿の身を 
何処かへ届けるように 

月明かりに照らされた 
十字路に立ち止まり 
マンホールの蓋が嵌(はま)る 
地面の底に響く 
激しい水の流れ 

( 飛び散る飛沫(しぶき)の間から 
( 助けを求める誰かの手が 
( わたしの名前を呼んでいる 

今迄 
幾人の叫びに耳を塞(ふさ)ぎ 
日々の路上を通り過ぎただろう 

月明かりに照らされた路面に 
俯(うつむ)くわたしの影 

見上げた道路標識に 
手を繋いで道を渡る 
少年と妹の青い影 

道の両側にともる 
いくつもの街灯と
無数の鈴を奏でる虫の音の
向こう側に待つ 
誰も知らない明日へ 
再びわたしは歩き出す 

遠い暗闇に開いた 
たった一人の小さい掌(てのひら)が 
わたしの名前を呼んでいる 




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