ネクスト ランナー/緋維
右足の指先が冬の林檎みたいに冷たくなって ああ いよいよこれまでなんだと思った
潔く力を抜けば良いのに
走り続けた中途半端な自尊心と 生まれ持った見栄とで緊張したまま
狩りを覚えた捨て猫ってきっとこんな気分なんだろう
座り込めばそこは東京駅
目指す場所とは全く正反対の方向に流される
抗おうと足掻く気力はないが やっぱり力は抜けないようだ
まるで意地張りな水槽の中の金魚のような滑稽さ
自嘲して笑ってやるほど 俺は頭が良くないらしい
頬に何かが流れたような気がして 期待しながら触れてみた
掠めとれるものは己の肌の質感が辛うじて
頭の中で無数の蟋蟀(こおろぎ)が叫びだして 俺はなんとかしてそいつらを殺してやろうとするが
何を知らす鳩時計なんだ
左手の指先なんて。
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