月夜の手紙 /服部 剛
 
誰も知らない薄闇の部屋で 
鏡を見ると 
虚ろな瞳で呆けた人が 
消えかかった足で立っている 

虚ろな人の背後に現れる 
黒布で覆い隠しにやける 
朧(おぼろ)な髑髏(どくろ)の顔 

( オ前ハ死ニタイノカ?否、生キルノカ? ) 

虚ろな人の周囲には 
今迄出逢った人々の
無数に響く笑い声 
光のしゃぼんに包まれた 
蛍の群となり 
果てなく闇に舞っている 

虚ろな人は 
少し開いた窓から首を出し 
遠い地面を見下ろす 

家々の屋根は
白い光に濡れており 
月夜の風にのって 
ゆらゆらと 
手紙が一通 
すうっと 
部屋に 
舞いこんだ 




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