イナゴ/渦巻二三五
んちは二人だから
少しでいいね?」
うちの人が。
と、つい口に出た
イナゴだめなんです。
こんなときは便利に夫を言い訳にする
ふ、とおばさんが笑った
「ああ、そうかい」
すみません。
あっはっはあ、だめかい。
と笑って
「じゃあ、またなぁ」
と去って行った
(あしたには甘辛く煮られるイナゴ)
もしかしたら
からかわれたのかもしれない
いやいや、そうではない
そうではないのだ
いつからか、
夕方には
「おかえり」
と声をかけられるようになって
そんなときは
ちょっぴり恥ずかしくもあり
踏み入ってしまった場所を見回してしまう
ちょっと奥さん、これ持ってかない?
と呼び止められたら
リンゴだった
ということもある
よくある
キズついて市場へ出せないリンゴ(ハネ出し)
が、ダンボール箱いっぱいになって
(どこの家でも)
冬のあいだじゅうそれを食べて過ごします
初出:一九九六年八月一日 @nifty 詩のフォーラム
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