空の椅子/服部 剛
 
緑の山の真中に 
白鷺(しらさぎ)が一羽枝にとまり 
毛繕(けづくろ)いをしている 

曇り空に浮かぶ 
青い空中ブランコに腰掛けた 
わたしの眼下に敷かれた道を
無数の車は通り過ぎる  
遠い過日から 
遥かな明日へ 

背後の山の茂みに唄う 
弱りかけた蝉の独唱 

行方(ゆくえ)もなく 
Tシャツの袖をかすめる 
初秋の風 

わたしはこうしていつまでも 
見えない糸に吊るされた 
青い空中ブランコに揺られ 
眼下の街の日常に 
時折雲間から覗く太陽のカメラが映写する
不器用な役者を演じる自分の物語を傍観しながら 
含み笑いを浮かべる 

口を開いて呆けた顔で 
右手に飲みかけのティーカップを 
かじかんだ左手に 
見えない(なにか)を持ち損ねたまま  

曇り空の真中で 
青い空中ブランコに腰掛け 
誰も知らない心を繕う 




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