どすこい喫茶/明楽
階段の下をくぐって
木の合間を通りぬけ
何かと狭い思いをして
ようやくたどり着いた
いつもは人が落ち着かない
そそり立つような
建物の合間にできた憩いの場
モグラの巣にでも
お邪魔した気がした
左隣にはいつもの人
右隣には今日初めて会った人
シャボン玉の中ではいつもより
たくさんの人に出会って話をする
いつもより
知らない人への垣根が低いから
「木野マジックだよ」
右隣の人の言葉
何だか笑いたくなるくらい
私には全てが
納得できてしまう言葉だった
いつもと違う事を感じてみたくて
ラムベースのお酒を注文した
飲みながら今の自分の話をする
左隣の人が言う
「こんなもんじゃない」
忘れていた気持ちを
思い出すには 十分な言葉だった
たった今感じた心地よい経験と
さざなみのような
焦燥感とが胸をかき混ぜ
思わず私はモグラの巣を脱け出した
こんなもんじゃないと呟きながら
1999
戻る 編 削 Point(1)