中華食堂/服部 剛
銀座の路地裏に入ると
色褪せた赤い暖簾(のれん)に
四文字の
「 中 華 食 堂 」
がビル風にゆれていた
( がらら )
曇りガラスの戸を開くと
「 イラッシャイマセ 」
うしろ髪を一つに束ねた中国娘の店員が
ぼくを迎える
胡弓(こきゅう)の涼しい音色が
流れる店内の
隅っこのテーブルに腰を下ろし
メニューを開いていると
隣のテーブルでは
ネクタイを緩めたサラリーマンに出す
メニューを間違えた中国娘は
しきりに頭を下げていた
少ししてから
持ってきたタンタン麺を
僕のテーブルに置いた時
中国娘の手はすべり
ましろい頬を赤らめた
器の下のおぼんには
こぼれた汁と葱(ねぎ)の残骸
ぼくは器を横にずらし
汚れを隠しすました顔で
ぴりりと辛い麺をすすった
( がらら )
親元を遠く離れた
異国の地で働く中国娘の
「 イラッシャイマセ 」
を耳にしながら
戻る 編 削 Point(10)