猿は彗星にまたがって笑う/大覚アキラ
あの彗星を追い抜くには
おれの命はあまりにも遅すぎる
もっとスピードを
もっとスピードを
摩擦熱で燃え上がって灰になるまで
もっと軽やかになるために
おれは足の小指を切り落とす
猿が
彗星にまたがった猿が
歯を剥いて笑う
明け方の夢の中では
街中を覆い尽くす劫火が
ペルシャ絨毯のような
美しいモザイクを造る
その上を
数え切れないほどの彗星が
長い尾を曳きながら
地平線に消えていく
足りない
足りない
おれには何かが足りない
おれには何もかもが足りない
距離と重量のどちらが重要か
重量と面積のどちらが偉大か
面積と輝度のどちらが荘厳か
速度の前では全てが無価値だ
もっとスピードを
もっとスピードを
なんてこった
おれたちは
猿にさえ遠く及ばない
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