誰かの手/
服部 剛
少し前まで
座っていた席の下に
置き忘れた
飲みかけのペットボトルを
扉を閉めた電車は
線路のかなたへ運んでいった
きっと
作業着姿の誰かが
忘れたゴミを
無表情に屈んで
拾ってくれるだろう
この足で上る
駅の階段と大きな駅ビル
右手に握ったペン
左手に持ったノート
今日に自分を彩る
Tシャツとズボン
見知らぬ誰かの
働く手につくられた
すべてのものにつつまれて
目に映る世界の只中に
今、ぼくは立っている
戻る
編
削
Point
(6)