ホームレスの箱の中/なかがわひろか
 
橋の上で頭を垂れて
道行く人に小さな段ボール箱を差し出している
一人の老婆に

あなたはさっと歩み寄り
その汚い箱の中に
箱よりも小さな希望を入れました

何の重さもないそれに
頭を垂れた老婆は
気づくこともなく
ずっと地面を見ているまま

あなたは一つ何かをつぶやいて
それはどこかの国のおまじないのようで
そっとその場を立ち去りました

一日中頭を垂れ続けた老婆は
夜になって
人通りが減った頃に
やっと箱の中をのぞき込みました

老婆には
何も見つけることはできませんでした
そこには小さな希望があったのに
あなたが入れた小さな希望があったのに

空っぽの段ボール箱を
大事に抱え
老婆はその場所で眠りにつきました

見えない希望を抱えたままで

重さのない希望を抱えたままで

(「ホームレスの箱の中」)
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