今世紀ランナー/青井 茜
 
いつまで経っても動くことのない
「もう一度」
を求めながら
僕は夢遊病者のように歩くよ
 
 
てとてと、と踏んだ畳には
陽にやけた跡が真新しく
そこにあったある物を思い出させた
 
無い物ねだりの末に見つけ出したのは
昭和の薫りがする黒電話で
破れた襖の入口からは
叱られた僕が顔を出した
 
 
いつまで経っても動くことのない
「もう一度」
を求めながら
僕は夢遊病者のように歩くよ
 
初めて出会ったあの日のことを
「さようなら」
と呟きながら
僕は中毒患者のように謡うよ
 
 
けらけら、と鳴いた虫からは
生きたい想いが古めかしく
ここにあるこの物の叫びを聞いた
 
必要性ばかりを追って探し出したのは
22世紀を彷彿とさせる小さな板で
自動ドア開閉の度に
虚ろな瞳が零れ落ちた
 
 
いつまで経っても動くことのない
「もう一度」
を求めながら
僕は夢遊病者のように歩くよ
 
最後になるだろうこの日のことを
「ありがとう」
に色付けながら
僕は長距離走者のように
 
 
 

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