ドリーはせせら笑う。/錯春
どうしても顔も名前も思い出せない人がいる。感覚だけが確かで、ただ単に興味が有ったという感覚だけが確かで。
それは片思いをしていたあの隣のクラスの子だったような。ちょっとだけ付き合ってキスも出来なかった文通相手だったような(はたして文通だけで交際した、と言いきれるかどうかは、現代じゃ難しいだろうけど)。もしかして同性愛者なのか?と危惧させてくれるくらいに、気高かった幼馴染のような。
ともかく思い出せない人が居る。
それらの人達は、それぞれ顔は覚えているのに名前が無い。皮膚を覚えているのに温度が無い。瞳を見ているのに影が無い。
でも、思い出せない人達は優しい。
やさ
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