神隠し/月見里司
汗をかかない速度であるいている
交通標識には
知らない地名が並ぶ
一方通行なのは車両だけだということだけ
当然知っているとばかりに
迷うためにあるいている
個人商店が
灯りを落としはじめて夜が
目を閉じたまま
路地裏から出てくる時間帯を
小学生が二人、駆けてゆく
ひとりは先にひとりは遅れて
牽こうと掴みにくる手を
振り払えないのが
としごろと言うもの
時折車が通り
ブレーキランプの赤が落ちるたび
通学帽が橙色に染まる
小学生は二人、駆けてゆき
わたしは夜を待つようにあるいている
不明瞭になった季節の
街はずれに満ちる
あらゆる残り香が
鼻をくすぐるようでもあり
ささやかにひろげた腕
//2007年8月4日
戻る 編 削 Point(3)