げんとう/月見里司
いている。思い出したように懐から手紙を取り出し、路面に投げ打つように置く。足は止
めない。手紙は白い封筒で、中に一枚便箋が入っているだけの、通知のような代物だっ
た。宛名はどこにもなく、男の名前もない。ただ墓碑銘のような文節の連なりが癖のない
字で書かれていた。いつの間に、男は随分と離れたところまで歩いている。自らの言葉通
り、走る必要などなかった。最初から。
ますます厚くなる雲から、とうとう降り始めた雪が、遠くにある街灯のおぼろな光を遮
る。弱いまま降り続ける雪の中、日は昇らずとも、朝は来て、路面に置かれた手紙を薄く
積もりはじめた雪が、隠す。解けたあと、そこには何もない。
//2007年2月 同年7月改稿
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