朝だけ/あおば
 
て落下する
地震の揺れはそんなに酷かったのだと
テレビの映像は強制的に語る
俯瞰の画像では
蟹の親子の転倒などは見えるわけもなく
崖下に飛び込む水滴の気持ちなどは気にもしない
剥き出した鉄筋からの血が吹き出るような痛々しい画像を見せて
次のシーンに変わる

生きているだけで幸せなのだと
いつも思っているのだけれど
それだけでは不十分で
なにかの形にして示さない限り事実にならない
崖から飛び込んだちっぽけな水滴はそのことを良く承知していたのだろう
蟹の親子を助けるためには身を犠牲にしても良いと思ったのだろう
空白のノートには書ききれない思いが残されていたが
泡立つ感情を白いノートに埋める雨が降るのも朝だけのことと諦めた
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