自慰/山中 烏流
 
濡れそぼつ手で
旋律を撫ぜるかのやうに
彼は私の
両の乳房に、そつと
指を這わせてゆき
 
それはあたかも
神聖な儀式であるかの如く
誰も目にすることのない
真つ暗な室内で
執り行われ、
 
 
私が一、二度
細い喉の奥地から
虚ろな侭
息を生み出してしまうと
 
それは熱を帯び
私の胎内は
易々と侵入を許しながら
濡れそぼつ手に似た
潤いをもたらし、そして
 
 
数回の
細かな死を受け入れたあと
私はそっと
縫い付けた瞼を
ぱちりと開きます
 
そこには
濡れそぼつ手も
熱を帯びたそれも
存在することは
なく、
 
 
白く汚れた指の先では
僅かな死の余韻と
満たされぬ空虚が
 
けらけらと
嘲笑うだけなのです
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