精霊流し/折釘
 

送り火は遠い波濤にまっ先に消えた
竹飾りは猫と仔犬が昼の間
じゃれついた裏通りからの角ではためく
塗炭屋根を透いて夕凪の水平線が現れる頃
精霊流しは
漕ぎ手にまかせ不知火を渡る

町に人に覆い被さる空が見える
千切れた和紙が濡れた足に絡む
漁旗のかからない大魚の舟骨に
鴉の群れが
何時からそこに留まって
何時までそこにいるのか分からず

船脚だけを競うこの夜
男は酔いにまかせた舟歌を歌い送るも
縄の縫い方 魚の吊るし方を忘れ
女は見栄だけの帆を張るも
波に飲まれて打上がり
浜に哀しく拾われ

鑞の匂いに誘われた白蛾の燃えかすを
線香くさい指で握りしめた
桟橋を渡り終わると
引き返せぬあたりで迷い
精霊流しがあける頃
骸を探し求める声が
静かな海に満ちている



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