生きる。/ワタナベ
 
生きるということが腹の底に岩としてずしりといて
もう随分になります
その間にも
あやふやな記憶をたぐりよせ
ようやく原色で彩られた暑い夏へたどりついたころに季節は秋めいて
高い空に母娘の晴れやかな笑顔を見たと思ったら
それは灰色の風に凍ってゆっくりと落下していきました
あいかわらず岩は岩としてゆらぎもしません
安易に死を望むこともありますが
私は臆病な人間ですので
痛く苦しいことを想像すると身の竦む思いで
ただただ老衰で穏やかに死んでいく様を夢想するばかりです
くしゃみを2度しました
目の前を銀色の背びれの魚がちかりとして泳いでゆきます
まとわりつくような海水の中です
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