授乳のひと時 /服部 剛
 
若い母の膝上に
抱かれた幼子は 
ぐわ〜ん ぐわ〜ん 
と泣きわめいていた 

やがてその泣き声は 
ぐわはは ぐわはは 
と転がる笑い声になった 

人目を気にしながら 
若い母はシャツのボタンを外し 
ハンドタオルで隠した乳房を
幼子のとがった唇に吸わせていた 

小さいもみじの両手をあてて 
小首を曲げて瞳を閉じた幼子は 
黙って母乳を飲んでいた 

( 周囲に座る他人は皆 
( 視線をそらし 
( そっぽを向いていた 

はだけたシャツのすき間から 
ちらっと白い肌は見え 
ぼくは膝上に本を開いたまま 
ぽかん と口を空けていた 




戻る   Point(3)