夕方にはカエルと言って/soft_machine
 

夕方にはカエルと言って
行方不明の父親が現れた
その日仕事から帰ってみれば
珍しく上がりに揃った母親の靴と
並んで見慣れぬ紳士靴
その好い趣味と墨が切れた痛み具合が
父親の物をおいて他にない
真っ昼間からいい匂いをさして
かつての妻に向かって何か喚いている
三人で同じ場所にいるのはいつ以来のことだろう
居間に佇む姿に
月日の留まらぬ疾さを
自分の加齢よりはっきりと知る

夕方にはカエルと言って
根菜ばかり刻んで宵
思い出語りは哀愁を振りちらし
舌鋒が迷走し時事を論じる千鳥足
風呂からひばりを絞め殺したような謡
ふたりきりで眠るのはいつ以来だろう
感傷的に
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