蜘蛛の糸 /服部 剛
 
友と楽しい一日を過ごし 
反対ホームの車窓の内から 
ぼくに手を振る面々を 
列車が運び去った後 

静まり返った 
無人のホームの端に立つ 

胸のすき間に 
沁みる夜風が吹き抜ける 

あての無い夜の彼方へ 
線路は消えゆく 

輪音の残響ばかりを
暗闇に残して 

終電に乗ると 
酔っ払い 
よれたスーツの中年が 
片腕を垂れ 
座席にうつ伏せていた 

腰を落とし 
見上げる虚ろな瞳

微かにゆれる吊革に 
見えない細糸は垂れ 
小さい蜘蛛がひとり 
振り子になって 
宙にもがいていた 




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