あし。/もののあはれ
 
尋ねた
私は声が出なかった

ベッドに横たわる男性の膝から下が両足とも無かった
ベッドの下には義足がチョコンと二つ並べて置いてあった

いや忘れ物をしたと思いましたが勘違いでした
すいません

私は苦しい言い訳をして診察室を後にした
何とも言えない情けない気持ちで病院を逃げるように出ると

空が青かった

私は走った
ひたすら走った
疲れなどは消えていた
いやそもそも疲れてなどいなかった


地に足のついていない頼りない己の足であったとしても
いける所まではせめて
私はいかなければならないのだと心に誓いながら走り続けた







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