歌姫/海月
 
降り止まない豪雨
微かに水を切る車の音
窓伝いに零れる涙の雫

渇いた歌声
整えられた髪飾り
銀の指輪が錆びて

嘗ては、歌姫と持て囃された自分自身
今は廃れた自分自身
一世を風靡した自分はいない
過去の栄光に縋り付く
その度に現実から離れていく

古びたレコード
今は色褪せた自分の名前

恋人は売れなくなった瞬間に
私の稼いだ財産を持って
蒸発

愛の言葉は遠い記憶の奥底
日々の思い出が積み重なり
二度と思い出すことない

蓄音機からは自分自身
今は流行らない曲調

もう一度歌いたい

湿った裏通り
濡れた黒猫
不幸を呼ぶから
だから、私はいつもカーテンを閉めた
ただ、今日だけは部屋の中に招いた

君で良いから
私の歌を聴いて

今の私を歌った曲
最初で最後のこの歌声を


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