年寄りの湯 /服部 剛
夏も近づく梅雨の晴れ間
老人ホームのお風呂場に
次から次へと送り込まれる
体の動かぬお年寄り
丸い背中をごしごし磨く
自分の姿を鏡を見ると
いつのまに
ずぶ濡れのTシャツ短パン姿
ぐっしょり湿った首巻タオル
車輪のついたリフトに座らせ
シートベルトを腹に巻き
ハンドル回して下降する
リフトに座ったお年寄りは
ひとりずつ
湯舟に浸かる
タオルを頭の上にのせ
幸せそうに顔を緩めるお爺ちゃん
いやよやめてぇ〜と叫んでは
気持は少女のお婆ちゃん
湯舟から
上がって湯立つお年寄り
シャワーをかけて
バスタオルで包み
脱衣所へ送り込む
すべてのお年寄りを洗い終え
がらんとなったお風呂場に
散乱する、洗面器達。
がらんとなったお風呂場に
汗粒かいたリフトが一台
首巻タオルで額を拭い
( おつかれさん・・・ )
と呟いた
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