病める女 /服部 剛
 
貧しい村の群衆に紛れ 
無数の足音の下を 
痩せ細った 
病める女が這っていた 

低い目線の前に 
舞う砂埃(すなぼこり)の向こうで 
長い間-----  
女が探し求めた 
その人は 
静かな足取りで歩いていた 

忙しい無数の足と 
砂埃を貫いて 
血管の浮き出た白い手首を 
必死に伸ばした指先は 
静かに歩くその人の 
衣の裾(すそ)に 
微かにふれた 


( 誰かが、わたしにふれた・・・ ) 


群衆の渦の中で立ち止まり 
振り返ったその人は 
そっと腰を下ろし 
今にも涙の溢れそうな 
病める女の窪(くぼ)んだ瞳を
じっと 見つめた 


ひと時の間(あいだ) 
その両手は長い黒髪を 
包んでいた 


その人と病める女の
周りには
沈黙する群衆の
輪ができていた 







戻る   Point(4)