Pieta /服部 剛
 
柔和な言葉を語りかけてくれた
( あの人はもういない・・・

いたたまれずに
立ち上がったその弟子は 
隠れ家の木の扉から
裸足のまま飛び出し 
曇天の空の下に広がる
音の無い村の家々を抜けて 
涙目で歪んだ顔のまま 
死んでしまったその人の眠る 
洞穴へと走った 

村を抜けた荒地を覆う  
曇天の空の下に立つ 
金色の門を抜けて 
石段を下りた暗闇に入り 
弟子は棺の前に立った 

蓋(ふた)の開いた中は 
その人が身に纏(まと)っていた 
血染めの布が置かれ 
そこには誰も 
いなかった 







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