浜辺の女 /服部 剛
 
古い日記の頁を捲(めく)ると 
遠い昨日へ 
葬られた女(ひと)の名前 

( 霞の向こうに立つ、その人影 ) 

左手首に巻いていた 
あの日の腕時計は 
いつのまに、錆(さ)びていた 

( 時間(とき)の止まった 
( 放課後の教室から 
( 夕陽に染まる制服の 
( 君が出てゆく 

教室の窓外は、海。 

うす暗がりの浜辺には 
手の届かぬ、制服の女(ひと) 

白魚の指で 
砂に記した一文字 
打ち寄せる波が消すのを 
ひとり佇(たたず)み 
待っている 







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