大事なもの/なかがわひろか
 
占い師に手相を見せたら
あんた来月死ぬよ、と言われた
何か避ける方法はあるかい、聞くと
一万円と答えた

僕は仕方なく一万円を支払うと
あんた大事なものはあるかい、と尋ねられた
僕は思い当たるものがあったので
うん、と肯いた

そいつを捨てちまいな
占い師はそう言った

僕は家に帰って
大事なものをベランダから放り投げた
これでよかったんだろうか
そんな風に思ったけど
それから一ヵ月後
僕は死ななかった

僕の大事なものは
ベランダから見える茂みの中で
毎日少しずつ腐っていった
僕の大事なものは
誰にも見つからずに
土の中に還って行く

その翌月も
その翌月も

僕は死ななかった

僕は大事なものを失った

僕は生きる意味も失った

(「大事なもの」)

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