春の裁判/ワタナベ
 
某月吉日 某所にて

異議あり、裁判長、今の発言は原告の名誉を著しく損なう発言であると思われます。
被告人には発言の撤回を要求します。

異議を認めます、被告人は口を慎むように。

ではここで原告側の証人喚問を行いたいと思います、彼女は被告人と同じ都内の会社に勤めるA子さんです。

A子さん、証人席へどうぞ。


「A子さんの話」

彼は普段はおとなしい人でしたが、春のこの時期になると少しおかしくなるんです。
五月病、とでも言うんでしょうか。でも別に鬱がひどくなるとかそういうわけではないんです。
五月のこの時期ってたんぽぽの綿毛が飛びますよね。ふわりふわりと、たくさ
[次のページ]
戻る   Point(10)