春の裁判/ワタナベ
某月吉日 某所にて
異議あり、裁判長、今の発言は原告の名誉を著しく損なう発言であると思われます。
被告人には発言の撤回を要求します。
異議を認めます、被告人は口を慎むように。
ではここで原告側の証人喚問を行いたいと思います、彼女は被告人と同じ都内の会社に勤めるA子さんです。
A子さん、証人席へどうぞ。
「A子さんの話」
彼は普段はおとなしい人でしたが、春のこの時期になると少しおかしくなるんです。
五月病、とでも言うんでしょうか。でも別に鬱がひどくなるとかそういうわけではないんです。
五月のこの時期ってたんぽぽの綿毛が飛びますよね。ふわりふわりと、たくさ
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