喫茶店/山中 烏流
 
ステンドグラスが光る
クラシカルな部屋で
私は無言のまま
珈琲を含み
ケーキを頬張っている
 
鏡張りの壁に
もたれ掛かる身体は
きっと、もうすぐ
溶けてしまうのだろう
 
 
思考の海の中を
意識という浮き輪を着けて
漂う
 
目を瞑ったまま
身体を預けていたら
自分のかたちすら
分からなくなった
 
 
ゲーム盤の埋め込まれた
時代の香るテーブルは
たくさんの人を
受け止めてきたのだろう
 
そっと指で撫でると
気持ちよさそうに
身震いをした
ように、見えた
 
 
ケーキはもう
跡形も無くなって
 
珈琲は少し
薄味になってしまった
 
 
ストローをゆっくりと回す
からからと
氷が笑いながら
溶ける
 
そのグラスの中に
私も小さく、確実に
溶けていた
 
 
溶けていた。
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