「ものとおん」#10−#12/リーフレイン
 
#10
     花 
呼び鈴が鳴った。古アパートの玄関を振り返る。こちらが開けるのを待たずに硝子戸がガラガラと乱暴にひかれた。 
女が一人立っていた。 
赤子を背負っているようでねんねこをはおり、化粧ッ気のないおかっぱ頭の中年女でお世辞にもきれいだとはいえないご面相。 何を怒っているのか顔が歪み、白目の目立つマナコがふるふるとゆれてこちらをにらんでいる。 
見覚えも全くない女で、一体何事なんだ?と怖かった。 
「あんた、いい加減にしてよ!」 
と、女は言うなり、づかづかと部屋に踏み込んできた。 
「あたしたち、今日からここに住まわせてもらいますからね。家族なんだから当たり前で
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