ある日/んなこたーない
は 霧深い橋にひとりたたずんでいるだろう
運河は濁った水面に赤い色のリボンを浮かべて
おれはピストル自殺したあの舞台女優の生涯について考えている
「うるわしのテムズよ、静かに流れよ、わが歌の歌い終わるまで」
しかし歌はすぐ終わる
ひどく騙されたような気がして おれは
一度だけ敬虔な表情を装ってみる 「愛する者よ、沈黙せよ、沈黙するのだ」
運河は濁った水面に赤い色のリボンを浮かべて 霧は橋上にたちこめてくる
「うるわしのテムズよ、静かに流れよ、わが歌の歌い終わるまで」
しかし歌ははじまらず 愛する者は傍らをただ素通りしてゆく
愛する者と愛される者が
偶然に出会い 偶然に沈黙の声合わせ歌うとき
しかしそのとき おれの姿はどこにもない――すべてこのまま変わってゆけ すべてこのまま変わってゆけ。
戻る 編 削 Point(0)