砂景/月夜野
 
 浅瀬に人影がうかんでいた
 ゆらゆらと動いているのは髪の毛ばかりで
 まだ生きていた父とふたり
 はるか野の際をいく船に手を振り
 斜面の草をゆらす風に
 白い花びらをちぎっては散らした
  
 別れのはじまりはこんなにも唐突で  
 わたしはふいに折り重なっていく予感に
 編みあげた冠をかぶることも忘れて
 鈍色の裂け目にのまれるように遠ざかる
 父の背中を見送った

    ***

 しうしうと
 砂の降る音がする
 垂直に交わる部屋の四隅から
 天井から 桟から 扉から
 威嚇するヘビに似た金属音を発しながら
 わたしの背後にみるみる砂山を築いてい
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