草刈合戦/錯春
 
く声が出ないので
 耳をよせようと近づくと
 ひょいとおぶわれて、脱兎のごとく駆け出した。

 アワダツゾ。タオレルゾ。アワダツゾ。タオレルゾ。
 じいさんは、ものすごく楽しそうに笑いながら
 節々が泡となって倒れていく草を駆け抜けた。
 タオレルゾ。アワダツゾ。タオレルゾ。アワダツゾ。
 ぴしんぴしん葉っぱが肌をうつ。
 痛。
 血ぃ出た。



 目をあけると、連れ合いが私の親指を吸っている。
 「寝ながら血が出るまで噛むとか、ないよ」
 目を凝らすと、たしかに立派な歯形が。
 「あー夢みてた」
 「どんな夢よ」
 「合戦」
 「合戦じゃぁしかたない」
 都会育ちの連れ合いが、なまっ白い手で撫でてくるので
 軍手の無い手で目をこすった。





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