鏡ノ国 〜港の見える丘公園にて〜 /服部 剛
俯(うつむ)き
ふたりの子供を
そっと優しく抱いている
ひとりは母の懐(ふところ)に寄り添い
ひとりは ぎゅっ と握った小さい拳を
胸にあて
小雨降る
薄暗い日の森の裡(うち)
母子像の前に立ち止まり
黒い爪先揃う足元見れば
一つの鏡がそこにある
歪んだわたしの人影は
うっすら水面(みなも)に揺れている
細枝に
くっきりとした葉っぱが一枚
曇った空に手をふっている
佇(たたず)むわたしの背後には
湿った木の間の望遠に
汽笛を鳴らす
港の船が浮かんでる
小さい拳を握った少年は
瞳を少し見開いて
わたしに秘密を囁いた
僕タチハ
昔ノ事故デ去ッタ後
今ハ鏡ノ国ニイマス・・・
黒い爪先揃う、足元を見る。
うっすら揺れる
水面の鏡に映る空から
葉っぱが一枚、落ちて来た。
戻る 編 削 Point(10)