不安/蔦谷たつや
 
小さな虫は不安でした
彼は自分が自分であることに不安でした
彼は或る時、彼のおじいさんに言われたのでした
自分は自分であるしかないのだと
それ以来、彼は、自分が自分であることに不安でした

―不安
僕らにはこれを云いようもありません
いや、云いようもないこと、すなわちそれが、
不安というものなのでしょう
きっと、お空のお星様もお月様も太陽様も
皆、不安なのです
あなたももちろん不安なのです
そうやって、うそをついてはいけません

彼はやがて、自信の不安に不幸さえ覚えました
ですので、彼は、種族に賢者しかいないという
大きな虫達がいる国へ、旅にでようと思いつきました
或いはそこに、不安のない世界があるかもしれない―
彼は愚かでした

旅の準備ができた―
ちょうどその時でした

ひゅーゅー
大きな影が彼をつつみました

ぐしゃり
彼から、不安、いや、彼のすべてが
なくなりましたとさ

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