蝉時雨/イヴ
 
僕はため息を吐く
また一つさっきのより深いのを
別に理由なんてない
それは
鬱々とした日々に対してかもしれないし
または
自ら手放した幸福を想ってかもしれない

でもそんなことは関係がないのだと
それも分かったうえで
また深いため息を
吐く
この暮らしの中で失われていくものを
それと対価かそれ以上のものを得ようと
またため息を…ひとつ


たぶん
初恋のときの甘酸っぱさは
この先得られない

たぶん
子供のときのような無邪気さは
もう戻ってはこない
たぶん
眠れぬ夜を過ごした日の孤独感は
悲しくも蘇りはしない

決して
失ったものは戻りはしないのだと
分かっているから
僕はため息を吐く
その先にあるものを願って
その想いすら明日には失われるとして…


ねぇ?
僕は君よりも幸せだと
言えるかなぁ
言えるのかなぁ
僕があれから得たものなんてきっと
その定期券ほどの価値しかないのだけど…
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