海と声/まほし
1
もう、
ふりかえらないのだ
髪をゆらしていった風は
束ねることはせず
つまさきは
後ろに広がる汀を
走れない世界にいて
こころだけがいつまでも
波になりたがっている
2
ゆうべ、
海原を呼ぶ声が
半分失なわれてしまったので
貝殻のような名をつけて
せき止めとしたが
千切れてしまった風に
言の葉は乗せられない
下弦の舟にゆられ
水平線をたぐる旅にでるべきか
みぞおちの血汐を薬にするべきか
渚に立たされても
なぎさにはなれない
3
うみ、と
ふたたびうたえたら
つながるのだろうか
海に、
それ
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