暗渠/月夜野
 
 わたしたちのうつくしい夏は過ぎ去り
 ただ ぎらぎらとした陽炎ばかりが
 道すじに燃え残っているけれど
 二度とあうことのない確信は
 耳元で鳴る音叉のように
 気だるい波紋をいくえにも広げて
 記憶の皮膜を削ぎとっていく

 あの日 斜面を駆けおりた
 いとけない子どもの魂は
 わたしの心に緑の聖痕をきざみ
 高らかに響かせた喉笛で
 いのちの切っ先を天空へ向け
 飛行する鳥群れまでも切り裂いたのだ

 いとしい微かな寂しささえ
 子犬のように飼いならし あなたは
 諧謔(かいぎゃく)の産着にくるんで薄闇に解きはなった
 けれども――
 体に裂け目を
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